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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(21)
経済小説
2012年4月19日 07:00

<第三章  植木頭取時代>

長期政権の弊害(9)
 
cup.jpg クラブ「赫子」は開店から1カ月後の4月初旬は、企業の歓送迎会の二次会として賑わいを見せていたが、4月中旬以降、客足は少なくなっていった。4月下旬から始まった大型連休明けの5月初旬になっても、客足は戻らずクラブ「赫子」は閑古鳥が鳴く日が続くようになった。
 雇った4人のホステスのうち二人が店を辞めていった。赫子にとって一人補充するのが精一杯であった。初めてクラブのママとなった赫子は、厳しい経営の現実を味わうことになった。

 また久間も、殿様商売のできる銀行支店長の立場と、クラブ「赫子」のパトロンとしての立場、この二足の草鞋を履くなかで、水商売の難しさを、いやと言うほど思い知らされることになった。
 小林赫子への2,000万円の融資は、3カ月の据え置き期間が終わり、5月から毎月元利金50万円の返済が始まる。それに50万円の家賃やホステスへの給料および酒屋への支払いなどの諸経200万円、合計約300万円の支払いが、赫子の肩に重くのしかかるようになった。

 開店当初は順調な滑り出しであったが、5月以降目に見えて客足は遠のいていった。当初維新銀行から借り入れた2,000万円は、敷金や店舗の改装や酒屋への支払いなどで殆ど底をついていた。パトロンに囲われる身であれば、開業資金は男女関係の代償として援助を受けることができるが、久間と赫子との関係は微妙であった。久間は自己資金で援助したのではなく、自分の立場を利用して借入の手伝いをしたに過ぎなかった。赫子にとっては借金であった。クラブ「赫子」の経営が順調であれば問題はないが、経営が厳しくなっても久間に資金援助を頼むことは出来ない立場であった。

 赫子はこのままでは立ちいかなくなるとの危機意識から、開店に駆けつけてくれた顧客名簿を頼りに挨拶回りを続けて起死回生を図った。しかし義理で顔を覗かせてはくれるものの、常連客になってもらえるような客はごく僅かしかいなかった。

 その理由の一つに、ママの赫子と久間との関係が辞めたホステス達によってお客に知れ渡ったことであった。「赫子」のパトロンは維新銀行の支店長らしいとの評判が客の間に広がり、維新銀行の取引先はかえって警戒して来なくなっていった。  

 経営不振に悩む赫子に追い打ちをかけるように、6月下旬の人事異動で久間が長崎支店長に転勤することが伝えられた。久間の後任支店長には河野利治が赴任して来た。他の銀行にも言えることではあるが、やり手の支店長の後任には事故防止の観点から堅物の支店長と交代するケースが多い。維新銀行博多支店長の交代も同様であった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものであり


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